<12話 マニラ恐怖事件>
フィリピンのマニラに行ったときの事です。海外に行くときは必ずDATを持っていきSEを録音していたのですが、この時も海岸で波の音を収録していました。一人の現地の男性が近づいてきて「本物の銃の音を録りたくない?」と声を掛けてきました。その時「危険」という事より「本物の銃の音が録りたい!」の意識が強く働き「録りたい!」と答えていました。
「じゃついて来い」とタクシーに乗せられました。10分ぐらい走って見ず知ずの男が一人乗り込んできました。
「やばい」
さらに10分ぐらい走ってもう一人乗り込んできました。運転席隣に最初に声を掛けてきた男。後ろの座席は見ず知ずの男二人に挟まれた私。
「これは本当にやばい!」
私は現金、DATは全て失うだろうと覚悟を決めました。
しかし約30分後に私の心配事とは逆に実弾射撃場に到着しました。ここで少し安心しました。38口径、ライフルを撃ちDATも回しました。すべて撃ち終わったら
「こっちへ来い」とうながされるままついて行き、こちらからはっきりと「いくら?」と聞きました。
「一万円」
「???」 内心(ほんと?こいつらまともな奴らだったんだ)と気が抜けて一万円を払い「ありがとう」と一言いって大通りへ出てタクシーをつかまえました。
タクシーに乗った瞬間体全体の力が抜けドッと冷や汗が出てきました。
ホテルに戻り現地のスタッフにこのことを告げると
「あんた幸運だったよ。普通は身ぐるみはがされるね。それにそいつが警官じゃなくて本当に良かったよ。警官だったら身ぐるみはがされて留置場に入れられるよ」
「??なぜ?」
「フィリピンは賄賂社会で警官も金を得るためには何でもするよ。そして一万円は彼らの月収の20ケ月分だよ!ぼったくられたんだよ!」
と聞き一気に恐怖感に襲われました。そしてこの時ほどアジア圏における「円」の強さに感動した事はありませんでした。